結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
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2017年07月02日(日曜日)

日曜版【猫の目博物誌 その44】桜桃

猫の目で見る博物誌――。
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猫の目は季節を読み取る。

赤い。くだもの。
初夏の味。桜桃。
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生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。
私は黙って立って、六畳間の机の引出しから稿料のはいっている封筒を取り出し、袂につっ込んで、それから原稿用紙と辞典を黒い風呂敷に包み、物体でないみたいに、ふわりと外に出る。
もう、仕事どころではない。自殺の事ばかり考えている。そうして、酒を飲む場所へまっすぐに行く。
「いらっしゃい」
「飲もう。きょうはまた、ばかに綺麗な縞を、……」
「わるくないでしょう? あなたの好く縞だと思っていたの」
「きょうは、夫婦喧嘩でね、陰にこもってやりきれねえんだ。飲もう。今夜は泊るぜ。だんぜん泊る」
子供より親が大事、と思いたい。
子供よりも、その親のほうが弱いのだ。

桜桃が出た。
私の家では、子供たちに、ぜいたくなものを食べさせない。子供たちは、桜桃など、見た事も無いかもしれない。食べさせたら、よろこぶだろう。父が持って帰ったら、よろこぶだろう。蔓を糸でつないで、首にかけると、桜桃は、珊瑚の首飾りのように見えるだろう。
しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに食べては種を吐き、食べては種を吐き、食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。
〈太宰治「桜桃」より〉

桜桃(おうとう)はサクランボ。
バラ科サクラ属サクラ亜属。
その果樹「実桜(ザクラ)」の果実。

産地で生産者は「桜桃」と呼ぶ。
店頭に並ぶと「サクランボ」となる。

サクランボは「桜の坊」
「桜の実」という意味。

赤い坊があかんぼになった。
これと同じ。

ミザクラには二つの類型がある。
東洋系とヨーロッパ系。

日本で栽培される桜桃のほとんどは、
ヨーロッパ系である。
品種数は1000種を超える。

果実は丸みを帯びた赤い実。
品種によって黄白色もある。
葡萄の巨峰のような紫色もある。

「核果類」。
種子が1つある。

生食用のサクランボは、
「甘果桜桃」
セイヨウミザクラで学名Prunus avium。
イラン北部からヨーロッパ西部にかけて、
野生していたし、
有史以前から食べられていた。
甘い。

調理用には、
「酸果桜桃」
スミミザクラで学名Prunus cerasus。
原産地はアジア西部のトルコ辺り。
こちらは酸味が強い。

ほとんどの甘果桜桃は、
「自家不和合性」がある。
つまり「他家受粉」

一方、酸果桜桃はすべて、
自家和合性がある。

古代ローマのプリニウスの「博物誌」
執政官ルクッルスが桜桃の木を見つけた。
第三次ミトリダテス戦争で駐屯したのが、
黒海南岸のケラソス(Kerasos)。
そこでサクランボに夢中になった。

それをローマに持ち帰った。
だから学名Cerasusは、
ケラソスのラテン語表記となった。

それが後年、ヨーロッパ各国に伝わり、
イギリスでcherryとなった。
アメリカ大陸には17世紀に持ち込まれた。

セイヨウミザクラは明治初期に、
日本に伝えられた。

ドイツ人のライノルト・ガルトネル。
プロイセンの貿易商が、
北海道の開墾の際、桜桃を植えた。
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主な桜桃の種類。
佐藤錦(さとうにしき)。
国内で最も多く生産されている品種。
大正時代の1912年から16年をかけて、
後述のナポレオンと黄玉を交配してつくられた。
交配育成したのは山形東根の佐藤栄助氏。
その名をとって、
1928年(昭和3年)に命名された。

ナポレオン。
名前はナポレオン・ボナパルトに由来。
死後ベルギー王が命名した。
ヨーロッパ各国で栽培されている品種。
粒は大きめで、ハート形をしている。
完熟した果実は、極めて美味。
「ロイヤル・アン」のブランド名で流通。
佐藤錦の受粉木として、
一緒に栽培されることが多い。

ビング(Bing cherry)。
米国西海岸産のアメリカンチェリー。
アメリカの代表品種で、
日本への輸出量の9割を占める。
果皮が黒っぽい濃赤色。
粒が大きくて、酸味が少なく、
甘味が強い。
価格は国産に比べて手頃。

高砂(たかさご)。
アメリカ原産で、1872年(明治5年)に、
日本に伝わった。
元名はロックポートピカロー。
受粉樹として栽培される。
果肉は乳白色で果汁が多い。
適度な酸味とほどよい甘さがある。

早生種は、高砂、紅さやか、紅ゆたか、
香夏錦、正光錦、日の出、
そしてフランス原産のジャボレー。

中生種はサクランボの代名詞の佐藤錦、
北光、天香錦、夕紅錦など。

そして晩生種は、ナポレオン、
紅秀峰(べにしゅうほう)、紅てまり、
大将錦、月山錦など。

2014年の国別生産量順位。

1位トルコ 44万5556トン
2位アメリカ 32万9852トン
3位イラン 17万2000トン
4位 スペイン 11万8220トン
5位 イタリア
6位 チリ
7位 ルーマニア
8位 ウズベキスタン
9位 ロシア
10位 ギリシャ

フランスは15位、ドイツは16位。
中国は17位で、日本は21位。

トルコが圧倒的に多い。
そしてアメリカ。
これが二大産地。

日本の輸入先は4カ国。
1位はアメリカ4844トン、
52億円5843万円。
2位はチリ31トン、3329万円。
3位がオーストラリア 29.6トン、
4197万円。
4位はニュージーランド 19.5トン、
3157万円。

輸入はアメリカが圧倒的に多い。

日本国内の生産量は、
山形県が全国の7割を占める。
1万トン台の半ばまで。
つづいて北海道、山梨県だが、
一桁低い1000トン台。
農林水産省の統計。

1位 山形県 1万4500トン
2位 北海道 1430トン
3位 山梨県 1190トン
4位 青森県 605トン
5位 秋田県 364トン
6位 福島県 337トン
7位 長野県 278トン
8位 群馬県 118トン
9位 新潟県 104トン
10位 岩手県 29トン

桜桃はいろいろなところで栽培される。
しかし、どうやら生産力は、
どこかに集中するらしい。

世界ではトルコ、アメリカ。
日本では山形、それも東根。

雨ふれば梅雨と呼ばるる桜桃忌
〈山口青邨〉

桜桃忌(おうとうき)は、
「桜桃」の著者・太宰治を偲ぶ日。
6月19日。

1948年6月13日、太宰は、
愛人の山崎富栄と、
玉川上水に入水自殺した。
しかし遺体が上がったのは、
6日後の6月19日だった。
奇しくもこの日は、
太宰の誕生日でもあった。

雨男雨女かな桜桃忌
〈村山故郷〉

この雨男は太宰、雨女は富栄か。

カリフォルニアチェリー氾濫桜桃忌
〈百合山羽公〉

その通りです。

梅雨のサクランボ。
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太宰さんはなぜ、
命を投げ出したのでしょう。

「大皿に盛られた桜桃を、
極めてまずそうに、
食べては種を吐き、
食べては種を吐き、
食べては種を吐き」
かわいそうな人なのでしょう。

(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)

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